たくみの紹介

Vol.10

蚕・繭・絹の家 工房

小林 和子

蚕を育て、美しい糸を紡ぐ。
群馬を支えた産業を追体験。

蚕(かいこ)を育て、その繭から絹を紡ぐ養蚕。群馬県では伝統的に製糸業がさかん。すでに幕末頃から盛んに養蚕が行われ、明治に入ると日本で最初の官営製糸場・富岡製糸場が操業するなど、地域を支える産業でした。数十年前までは、春になるとどの農家でも蚕を育てていましたが、今では目にする機会は減ってしまいました。そんな昔ながらの養蚕を実際に見たり、さまざまな体験もできる「蚕・繭・絹の家」。お店番を務める小林和子さんに話を聞きました。

 群馬県沼田市出身の小林さん。小さい頃には、近所の家庭はどこも蚕を飼っていたといいます。夏休み前頃には、農業が忙しい時期の家の手伝いをするための“農繁休暇”という休みもあって、家族総出で蚕の世話に勤しんでいたと、懐かしそうに話してくれました。

「養蚕の時期になると、1日も休まずに蚕の世話をするんです。一度に何万匹という蚕を飼うので、とにかく人手が必要。時には近所の子どもたちも集まって蚕の世話をするのが、初夏の風物詩でした。蚕を拾って、"まぶし"と呼ばれる繭をつくる場所に入れてあげたり、くず繭を集めて真綿をつくるのは子どもたちの役目。きれいにできあがった繭から糸を紡ぐのは、大人の仕事です。子どもたちは、美しい絹になる大切な繭には触らせてもらえません。私もたくみの里に来てからこの方法を教わったんですよ」

 「蚕・繭・絹の家 工房」で体験できるのは、「座繰り(ざぐり)」と呼ばれる明治時代に行われていた伝統的な製糸方法。7つの繭からそれぞれ細い糸を取り出して1本の糸に紡いでいく、とても繊細で集中力のいる作業です。小林さんは素早く、丁寧に糸を巻いていきます。

「1つの繭からとれる糸は1300メートルほど。蚕は休むことなくそんなに長い糸を出して、あの小さな繭を作るんです。それを切らないように丁寧に煮出し、縒(よ)り合わせて強く紡いであげる。集中力も必要で、時間もかかる手仕事ですが、その手間をかけることでなんともいえない光沢のある、美しい絹が巻き上がります」

 化学繊維の登場や、機械化が進むにつれて、かつてはたくみの里周辺にも多かった養蚕農家も今ではわずか数軒になってしまいました。「蚕・繭・絹の家 工房」では5月の始めにたくさんの蚕を飼い、昔と変わらない方法で養蚕を行っています。
時期が合えば、桑の葉をたっぷりと食べている蚕の様子を間近で見られることもできるそう。小林さんの丁寧な解説を聞きながら、今ではなかなか目にすることのできない養蚕の工程を体験できる、貴重な機会が待っています。